男は二人要らないの 〜ドラマ『働きマン』雑感

しかし痛いよなあ、これはこれで…。
この日記を見てくださる方の多くが観ていると思われる(「はてな」のログ見ると「働きマン」関係のキーワード・検索から飛んで来た方が毎日結構な量いらっしゃるので)、気付いたら後半戦に突入しているドラマ版『働きマン』。個々のエピソードは原作にあったものを順不同ながら限りなく近い形で使用しながらも何かが違う、圧倒的に違う。ただしそれはそれで成立していて、だからこそ私は放映終了後考え込まずにはいられない。
じゃあ何がそんなに違うのか、と言うと、一言で言えば働きマン松方の友人・雅美が、ビジュアル的には男顔美女・佐田真由美で原作の雰囲気をほぼ維持しているにも関わらずその職業が「内科医」ではなく「歯科衛生士」だったり、スポーツ担当記者「お姫様働きマン」由美ちゃんが、メインになった話のラストで結婚した後も編集部の背景的チョイ役としてたまに登場する原作に対してドラマではあっさり寿退社をしていたりする(ちなみに由美ちゃんを演った釈由美子は来週の『ガリレオ』にも出るらしい)…という、恐らく本筋にはあんまし関係ないんじゃない? と思われる枝葉末節の設定。でもそれが、結果的に「ドラマと原作の決定的な違い」に大きくかかわっていると思う。
そう、ドラマ版ではかなり明確に、『女子は仕事を優先させ過ぎず、彼氏との時間を大切にすべき。それこそが幸せへの道』と陰に日向に訴え続けている…と私は思う。
例えば由美ちゃん登場回のラスト、「何で仕事辞めちゃうの?」と訊く松方に由美ちゃんは言います。「仕事よりも大切なものが見つかったから」と。また、上司に呼び出された松方にデートをすっぽかされた彼氏・新二に対して雅美は「あいつ、また仕事取ったんだ!」と呆れ返る。ちなみに雅美は、ドラマ版ではほぼ全編「仕事を優先させ過ぎず、新二をもっと大切にすべき」と再三注意する役回りになっていて、原作での名台詞「恋人同士は話なんてしなくたって乳首でもつまみ合ってればいいのよ」もドラマで使われたシチュエーションはまるっきり違う。
一方、松方とその仕事に対する描写はおしなべて弱い。「これじゃあ新二は愛想を尽かすよ」と私を含めた視聴者が割とスンナリ思えるように作られている。例えば第1回中盤、なにげに新二は仕事を理由にデートをドタキャンしているのですが、その直後の松方がデートをドタキャンするシーンはもっとしつこく、かつ松方の気の遣えなさを前面に押し出して描写していたりとか。「恋愛を優先させる新二」「結果として仕事ができない新二」の描写も大幅にプラスされていて、結果的に『仕事人間・松方の人でなし』感が強くなっているように見える。
『女子はそんなに仕事に入れ込まず、彼氏を第一に、思いやるべき』…これはこれで、結構リアルなんです。経験上、同世代男性の多くは頻繁に仕事の愚痴をこぼしつつ、でもそこには奇妙な「俺ってすごいんだぜ」的ニュアンスが入っていたりする。もちろんそれに対して「すごーい」「大変だねー、私には想像もつかないよ」と言ってあげれば「大変なんだけどさぁ、頑張るよ」と鼻を膨らませてくれる。一方女子(この場合自分なんですが)が仕事の、しかも「お局様がウザい」「月末の〆が大変」以上の、具体的には(男性と同じような)上司の決裁やら面倒な会議やら行きたくもない接待やら本社の体制の古臭さに関する愚痴を言えば最後、100%いい顔はしません。正直に言おう、それが原因になって振られたこともあります。新二の「一緒にいるとできない自分が辛くなるんだよ」はそっくりそのまま経験アリだし、さらに「お前『私だってそれくらいやってるもん』って思ってるだろ。バカにされてる気がするんだよ」とまで言われたこともある。もちろん私は松方に及ぶべくもないダメOLなのに、それでも。
況や松方をや。彼女の仕事環境はいわゆるタテ割り、自分の企画を自分で完結させるスタイルだから、途中で他の人に渡す事自体抵抗があるのは明らか。客観的にも下手なところで他の人に渡すのは最終的なクオリティに影響を及ぼす可能性が高い。だから上司のデスクは、松方の担当企画が急転しそうになれば深夜の呼び出しをかけて「来れるか?」と聞くし、松方はそれに対して応えてしまう。結果、デートはドタキャン。そこでいち早く新二に一報入れられないのは明らかに松方のミスだし、だからこそ「仕事スイッチが入るとそれ以外の全ての概念が消失する『働きマン』」なわけだけど、松方だって行きたくて行ってるというよりは、むしろ80%はその記事や「仕事すること」そのものに対する義務感なんじゃないかなあ(あとの20%は「情熱」だとしても)。逆にドラマはそこら辺の描写が甘いから、『仕事<彼氏』『仕事してる彼氏=男性に、もっと敬意と思いやりを』という紋切り型の結論に落ち着いてしまうってるような。
ちなみにこの問題、仕事に対しては消極的な打開案「真剣に仕事をしない」「『楽勝』状態に自分を追い込む」を実践してみると、ものすごく簡単に決着がつくのが事実。ちゃんと彼氏への時間を割けるし、彼の仕事を心から大変だなって思えるし、結果彼は元気づけられてますます二人の仲は深まる。「限界まで仕事をしながら、彼氏にはそれをおくびにも出さない」「仕事がテンパっても、まず思いやりを第一に行動」という上級策を実践した事もあったけど、それはそれで上手く行くんだけど、いかんせん私の精神力が保たなくて自己崩壊した経験も、そうだ思い出した。あと、業務内容が大幅に違ってもそれはそれで上手く行ったり(例えば「同じ会社の『企画』と『設計』」なんてのもアリ。逆に「業種は違っても同じ『営業』」だったりすると下手に自分をモノサシにしちゃって上手く行かなかったり)。…単に自分が、我が強すぎるだけかもしれないけど。
そんなこんなの働きマン。「上手く説明できない辛さ」に共感しまくった原作と、「直面する事実の具体性」に愕然とするドラマ版。どっちにしても重い。ダメOLでこれなんだから、キャリアウーマンって呼ばれる人たちはどれだけ大変なんだろう。それとも、もっと人間的仕事的に優秀だから上手く両立できちゃうのかなあ…。
ちなみに深刻な顔をしている私を横で見ながら、母は「つまり、『男は二人要らない』って事よねー」と一人頷いていた。そうか、そういう事なのか「女の働きマン」って。