おとめ、開封 〜OGさんいらっしゃい編

先生も出演なさっている宝塚100周年記念OG公演『セレブレーション100!宝塚〜この愛よ永遠に〜』の東京公演を、4月に本帰国された歴戦のプロ駐在妻・シオリさん(仮名)と観てきました。新人さんの次はOGだよ!シオリさんとの再会と表参道の素敵なお店でのランチ、先生のお元気そうな姿も久しぶりに目にすることができて素敵な一日でした。


以下は、もはやタダの宝塚ファン一兵卒となった私の感想となります。


ああ、奥深い。本当に奥深かった。これ、スカパーのタカラヅカ・スカイ・ステージで放送あるらしいのですが、OGさんなんて興味ないわっていう現代っ子でも、私みたいに「なんかたまたまこの1年は宙組をよく観たと思う」レベルの人なら絶対楽しめます。何しろ、おそらくは「タカラヅカの誇る名曲」であろうナンバーのオンパレード。ベルばらと風と共に去りぬだけじゃない、往年の演出家へのオマージュ・ショーだった『Amour de 99!! 〜99年の愛』で使われていたような気がする曲も頻出で、「おお、アレってこんな曲だったんだ」と思うこと請け合い。


そして、今回は、凝った演出やお芝居はなく、往年のスターの皆様が毎日日替わりでさまざまな曲を歌っていくイベント形式のショーで、日替わりの特集コーナーがベルサイユのばらエリザベート風と共に去りぬの3パターンある中、私が観たのはベルばらの回でした。私は去年の『風と共に去りぬ』で「20〜30年前の麻実れい天海祐希の記憶と比べられてこき下ろされるレット・バトラー」に心から同情するとともに恐らくは私と同世代であろう彼女たちのヅカキャリアが羨ましかったのですが、今日こそ私もそれができる!ヅカオタごっこができる!嬉しい!だって風と共に去りぬは年末に観たばかりだし、ベルばらに至っては今週だけで現役も新人もカバーしてるんだからね!さあ観た後はガッツリこき下ろすぞ今の宙組を!とその企画が判明した途端になんだかずいぶんゆがんだ感じで激しく興奮したのですが、…どうやら私はそういうタイプではなかったようです。


いや、まあ、なくはないですよ? あの曲って持って生まれた声質次第でこんな渋くなるんだとか、歴代トップスターさんの中でも歌が下手な事で有名なあのかたでもこのくらいだということは今まさに現役で歌ってるあのスターさんは実は相当、歴代の平均値的にはヤバい領域なんじゃないのかとか、そういうの。
でも、逆に、「あの歌、ビデオとかで観て相当歌が上手いと思っていたあのかたが歌ってもこんな感じなんだ。じゃあ、歌が上手くないと評判のあのスターさんならあれくらいの感じで別に充分じゃないか。…単純そうで隠れた難曲なんだな、あの曲って」とか、「確かにすばらしい、すばらしいソプラノだよ、でもあの現役の娘役さんもなかなかやるじゃん?」とか、そういうプラスな発見も同じくらいたくさんあったのです。まあそれ以前に、そんなイジワル目線を持つことなんて、観ているうちにいつしか忘れてしまったのですけど。ほんと、ヅカファンって記憶力いいんだな…。
いずれにしても興味深いし楽しかった、貴重なステージでした。「女優さん」や「マダム」が「男役」「タカラジェンヌ」に還る瞬間の罪深さに、御大オーラを出しまくる往年のトップスターさんが「カッコいい上級生と可愛い下級生」なんて言いながら同じように年老いている他の出演者を眺めるまるで吉屋信子少女小説のような瞳、毎日別テーマで企画されていたMC対談でうっかりどなたかが発言されていた、いかにも未婚女性ばかりの職場にありがちな微妙な人間関係の思い出…。
初々しかった子がいつしか堂々としたスターになり、素敵な女優さんやマダムになり、そして昔と変わらぬ熱量を持ちつつも在りし日を穏やかに懐かしむ。
つい先日の現役の舞台や新人公演の記憶と併せて感じるのは、母娘3代記のような、大河ドラマを越える重厚さ。宝塚歌劇団の深い伝統を改めて感じた次第です。


あ、でも、ひとつだけ言わせて。うちの伯母が新人時代に目をつけていた(!)という眞帆志ぶきさんが、『Amour de 99!!』で宙組のモデル体型の男役勢がクラシカルな黒い燕尾服を着て超キザに赤いバラの花を1輪ずつ持って踊る「何ていうか…サイコーだな、タカラヅカの男役って」という感じの群舞の場面で流れていたあの曲を、お年を感じさせない迫力あるハスキーボイスで歌っていらっしゃったのですが、もう想像通り昭和なドラマチックさがたまらない、すごくいい曲で。
さらに曲が終わった瞬間、母や伯母が宝塚観劇の楽しみの一つであったというにもかかわらず今では禁止されているらしい歌舞伎ばりの大向うの掛け声が、おそらくはかつての慣習通りに当時のファンのかたからかかったのです。その返しまで含めた一連の流れを、私はたぶん一生忘れないと思います。


「…あら、あなた生きてたの?ひさしぶりね。元気だった? …私は、元気よ」


眞帆志ぶきさま、御年79才(wikipediaで検索)。歌のあと、暗転するなり介助者が待ち構えていたのをわたしは見逃しませんでした。しかし粋、粋すぎる。
…どうか宝塚150周年記念公演、今まさに現役スターとしてセンター付近でステージに立っている彼女たちの姿を、生きて元気に観ることができますように。


そう、あなた(=スター)たちも、私もね。