おとめ、開封 〜新人さんいらっしゃい編 (2)

さて、ようやく本題の新人公演です。


券をもぎってもらってふたたびあの古き佳き華やかな日本を思わせる劇場内に入るなり、通常公演のロビーではあまり見かけない人たちが目につきます。恐らくは同期の活躍を観に来たのかいかにも現役の若いタカラジェンヌというグループもいれば、あの春先のニュースで見かけるグレイの制服をキッチリと着込んだ宝塚音楽学校の学生さん達の集団、そしていかにもタカラジェンヌのお父様と思われる、何となく場違いな、仕事帰り丸出しの紳士。
…なるほどこの人たちのための18時開演なのね、と思わず納得がいきます。


もはや見慣れた(しかし何度見ても気分がアガる)電飾キラキラの“ベルサイユのばら”の文字と可愛い薔薇の模様が手描きされたカーテンが姿を現す開演5分前、サブセンターブロックのそこそこ前のほうのぽっかり空いた席にゾロゾロと入ってきた集団に思わず息をのみ目を奪われます。何となく全体に黒っぽいジャケット姿に、何となく気軽に声を掛けられたら殺されそうな威圧感、それはさっきまで通常公演で主要な役を演じていた宝塚スターたちです。
「新人公演」とはOJT教育の発表会のようなものと考えられるので、「本役」と称される指導者の上司・先輩たる彼女たちがガッツリ顔を揃えてお客様目線からきびしくチェックするのは当然と言えば当然なのですが、あれだけ揃うとけっこうコワかったなあ、男役の人たち肩幅広めに作ってるジャケットもあって細いはずなのに妙にガタイいいし、よく見たら後に控えてる娘役さんもしっとりオトナな感じで、何て言うか清く正しく美しい乙女というよりは「組の若い者とその女たち」、もうなんだか「組の出入り」状態。まあ合ってると言えば合ってるんだけど(宝塚の組織構成は「組」のため)。


そして幕が開きます。おお、なんだか華やかなショー部分はガッツリ削られているなあ、唯一同じように真っ暗な中バーンと現れたオスカル様がなんだか小柄でまるで子供時代みたいだぞ、しかし堂々とした歌いぶりでさすが主役に抜擢されただけの事はあるなあ。
…という感じで、時間も時間だから休憩をはさむこともなくどんどんお芝居が続いていくのですが、なんとなく全体にライティングが違うような気がしたのは私だけでしょうか。舞台が常に隅々まで見えるように=それでもまだ脇役な本当の“新人さん”の動きもちゃんとわかるようになっている気がしたんだけどな。先入観かしら。
そして、脇役の一人一人が出てくる度に拍手があったり、とにかく拍手が多い。そりゃそうですよね、宝塚はほかの商業演劇に比べて学芸会的だとしばしば揶揄されるけれど、これは本当の学芸会だもの。あの大きな劇場のセンター近くに家族や友達が立つ、そんなすてきな事ってないですよね。
あの重要シーン『愛あればこそ』の1番と2番を思いっきり間違えていたのもご愛嬌。だってまだまだ新人だし、普段はその他大勢で目立ったセリフもあるかなしかという感じなんだし、みんなが憧れる名作だし、何と言っても一発勝負だもんねー。緊張するよね。


舞台全体の感想としては、明らかなミスは散見されたけれど新人さん達はなぜだか平均して歌がすごく上手で、私は宙組って他の組に比べてコーラスがすごく分厚くていかにも大きいカンパニー!という感じが前に東京で観た『風と共に去りぬ』以来大好きなのですが、その理由がわかったような気がしました。つまり、通常公演では“その他大勢”に過ぎない若いメンバーがみんな歌が上手いのよー。彼女たちがしっかり盛り上げてくれるからこそ、他の組に比べても際立ってモデル体型なメインキャストがズラリと揃っての丁寧なお芝居も舞台で映えるというもの。カンパニー全体の層の厚さを確認する意味でもこの新人公演というシステム、大規模劇団だからこそすごく意義があるんだろうなあ。


というわけで、ちょっと慣れない初々しい感じで今日のオスカル役のご挨拶もあったりして、全体にあたたかい雰囲気に包まれて幕を下ろした「新人公演」でした。帰りの電車などで他のお客さんと話してみると、本公演は観なくても新人公演だけは観る、という先物買いマニアなヅカファンもけっこうな数いるみたいだし、遠征の人もものすごく多かったっぽいし(帰りに新幹線の駅でいっぱいソレっぽい人を見かけた)、本当にヅカファン文化って面白いなあ。
粗もたくさんあるけれど、うーーーーーーん、これ、いちばん「あのバカ、おカネを払ってもらって見せる舞台なのわかってるのかっ」とかいちいちイライラしてたのはむしろ、指導者=スターさん・組長さんだろうなあ。まあOJTの指導者としては自分の評価にもつながるわけだから、当然と言えば当然なんだけど。


個人的には、やっぱりまだまだスキのある新人さん達の舞台をクールに観る…という、「宝塚歌劇団のお勉強」としては素晴らしい機会をあの値段で得ることができて、しかもあの自家中毒もほっこり緩和されてすごくよい経験でした。しかし宝塚って、入団7年目まで「新人さん」扱いなんですね。そりゃ、そういう「カタチに残る」感じで活躍するチャンスがないと腐っちゃうよねえ、いくらスタートが高3〜短大卒程度で大卒よりは若いにしても、皆そもそも相応の努力とモチベーションを持って入団しているわけだし(=学校の就職課の推薦で何となく入社したオーセンティックな高卒/短大卒の子とは違うわけだし)…と思わずオーエル目線で思ってしまいました。ついでに自分にも当てはめて、新卒の会社で何だかずいぶん長い間働いていたような気がしていたけれど、タカラヅカ的な計算で行けばまだようやく「新人」を抜けて数年というレベルだったんだな、甘かったな自分…という。芸の道は大変です。



結論:ヅカファンのOLさんって、きっと絶対、新卒で入った会社の勤続年数が長いと思います。