旅とは言えないシンガポール(3) 〜あらためて、結婚と愛を考える

moeringal2008-11-16

「なんかねえ、すごい順調なの。ホント、順調。それまでの4年間は何だったんだろう? って感じ。まあ、結婚ってラクだよー、ホント。…比べる事がなくなるからね」

実は結婚式以前から累計して、マトモに会話をするのは半年以上ぶりになるであろうと思われるE子は「きゃー、どうよ?」という私にしみじみと言った。薬指にある“イチオー・ブルガリ”であるところの小ぶりな、だからこそデイリーに使いやすいであろう一粒ダイヤのリングがきらりと光る。

「この4年間」のE子とご主人の話は、今まで腐る程聞いてきた。いささか不器用、口下手で天然ボケと思われる彼と何かがあっては、時には本気で泣きながら電話をしてきた彼女に対して、「別れたら?」と言った事も、今だから言うけど何度もある(いくら親友といえる友人でも、所詮よくも悪くも他人事だからね)。それに対してE子が「私は大学も指定校推薦で来た優等生だから、自分からお別れをいう事はできない」という名言を残しつつも、ついに自ら連絡を断つという形で別れようとしたのが去年の夏。そこへ「もう二度と会えないのかな。シンガポールに駐在が決まった。結婚して欲しい」というメールが舞い込んで大逆転、結婚を決めたのがその2ヵ月後だっただろうか。

今回、私のシンガポール滞在はいわばオバQドラえもんかという居候形式で、1LDKであるE子宅(クラーク・キーに程近い川べりにある、タクシーなら誰でも知ってる一大コンドミニアム。ガードマンとカードキーで完全管理されている敷地内はリゾートホテルにしか見えなくて、お飾りっぽいデザインのプールにはいつ見ても本気で泳いでる白人がいる。ちなみにお家賃は驚くほど高いらしい)のLとDにあたる部分に布団を敷いて寝起きするというものだった。よって、私やよく3人でつるんでいたもう一人の友人・Cには披露宴当日まで決して紹介される事のなかったご主人とも、初めてちゃんと接触する機会となったわけである。特に彼が所属しているフットサル・チームの練習と飲み会があるという初日の金曜日を除き、ディナーも2度連れて行っていただいた。

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ご主人はごくおとなしい感じの人だった。油断していると思わぬところでボケ&ツッコミを入れてくる辺りが、E子のツボに微妙にヒットしていると思われる。日本とアメリカの人気ドラマのDVDをこよなく愛し、だから毎日“amazon”の到着を心待ちにし、常に両手が空いた状態を好むため会社に行くにもホテルのレストランに行くにもリュックを背負っている辺りは意外に頑固なのかも知れない。「一緒にロンドンに行ったら惚れ直した」とかつてE子が言っていた通り、確かに料理をオーダーの時の英語は日本語よりも余程美しく冷静で流暢だった。

この日記の存在をE子に教えていないだけに正直に言ってしまえば、「比べる事がなくなる」というE子の再会第一声が、正直言うと本音なんだろうなあ…と思う。田舎メーカー(失礼)勤務の私にとってはあくまでも「顔立ちもいいし中肉中背のいい人。育ちのよさそうな、旦那さんにするにもすごくよさそうな」タイプのご主人であるが、E子が大学卒業以後身を置いていたのはズバリ『外資系金融』および『国内最大の証券会社』。折しも、時代はいざなぎ越えの景気回復が叫ばれた時期。高級なスーツをビシッと着た肩で風を切って歩く「イケイケのエリートリーマン」がそこら中にいたことは想像に難くない。若い女子にとってどちらがキャッチーな魅力を放っているかは、まあそりゃ後者に違いないんだろうし、「比べる対象」などそれこそそこら中にいたのだろう。

結婚してしまえば、とりあえずは相手はオンリーワンに絞られる。そして意外に真面目な私たちだから、ヒトヅマである事を隠して“ちゃんとした”合コンに参加…なんて事はしない。ましてや新婚生活を送るのはそれまでの友人や知り合いからも遠く離れた異国の地、自然に東京にいる以上に助け合うべき環境と言える。それでいて治安も現地校・日本人学校ともに教育制度も整ったシンガポールだけに新たに知り合う在留邦人も大半が既婚者さらに家族帯同者…となれば、「比べる対象」になり得る男性など激減どころか限りなくゼロに近いに違いない。

…そりゃ、結婚しちゃえば、たかだか「カッコ良いしエリートで面白そうで、しかも独身」なんて理由で知り合った人を値踏みしたり愛想よく振舞ったりする必要は一切なくなるんだろうなあ。例えシンガポールなんてグッドプレイスじゃなくても、東京でも仙台でも名古屋でも豊田や刈谷常滑でも、もっと私の行ったことのないどこかでも。

いくら何年も仲が良かった私でも、やっぱりソファーに座って『33分探偵』のDVDを熱心に見入る2人には割って入れない。「夫婦」ってきっと、そういうものなんだろうなあ。「結婚、そしてその先の生活」が心から羨ましくなるオバQ生活…いや、ショート・ホーム・ステイだった。

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【Ricciotti】 シンガポールではマトモでワインも種類がたくさんある方だというイタリアン。私が連れて行ってもらったのは川べりにあるRiverwalk店。あいにく店内は予約で満席だったので、遊歩道沿いのオープン席に。とは言え11月中旬のシンガポール、夕方以降は23度くらいまですぐに下がるので、夜風が気持ちいいです。
http://ricciotti.com.sg/

【Ming Jiang】  DFS至近の素朴さが素敵なコロニアルホテル、グッドウッド・パークに入っているイギリス系の中華料理。内装はモダンで、看板料理は北京ダックとの事。ちなみにシンガポールは中華だけはものすごく割安だそうなので、円高の今なら本気でメチャ安いらしい。冬瓜のスープも美味しかった。
http://yum.sg/restaurants/min_jiang_goodwood_park_hotel/

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