それも震災の記憶

きょうは阪神大震災の日、というニュースをNHKで観て。

早朝で音だけはすごいけど実家のある名古屋では震度3、で当然普通に学校に行った自分としては“阪神”の記憶は既にどうにも薄い。ただ、子どもの頃父が単身赴任で神戸に住んでいて、神戸ってなんてすてきな街なんだろう!と思ったし、ちょうどその頃、西村しのぶの『サード・ガール』という当時でも既に古典だった神戸を舞台にしたマンガがものすごく好きでますます漠然と憧れていたので、その美しい街が何だか映画で見る「太平洋戦争の空襲後」のようになっていたのは普通にショックだった。


それよりも震災、と言えばやっぱり“東日本”。実際記憶にも新しいし、実際震度5強の銀座のおんぼろビルの8階にいたから立ち上がれないくらい揺れたし、机に潜ったら隣の席の子の机下のキャビネットが押し寄せてきたし、まじめに非常階段横の廊下のリノリウムにひびが入っていたし、避難先にと思った泰明小学校も日比谷公園も押しくらまんじゅうのように人が押し寄せていたし、社長の太鼓持ちの総務部長のいつにない機転で行ってみた帝国ホテルのロビーはさっそく無粋さを気にせず数カ所に置かれたテレビがニュースを流していたし、一見の避難者にも水や毛布が配られていてそのホスピタリティに圧倒されたし、でもどうしても横浜の家に帰りたくて都内をえんえんとさ迷った、あの時の冷たい空気は今でも鮮明に思い出すことができる。ああ、ちなみにオットはその時すでにこの国にいました。


でも、関西の人は私とはちがいますよね。こんなキチンとした区切りでもなく、なんとなく“地震”の話になった時、大阪在住の義理の母から出た話はやっぱり“阪神”の話だったし(大阪はせいぜい震度3〜4だったそうですが)、当時はまさに宝塚歌劇団員だったダンスの先生に至っては“阪神”を思い出すどころか思わず涙ぐんでいました。普段はエキセントリックさも傲慢さも見せない良い意味でフツーのマダムなのにそういういざという時の感情の振れ幅の激しさはやっぱり“女優”なんだなあと感心したものだけれど、それもきっとそうなのだろうけれど、漠然と震災関連のニュースを観ているうちに宝塚の話も出てきて(マジでどうなのその最近のヅカステマ)、その中でもほんとうに渦中の人だったんだなあということを今さら知りました。そう言えば一昨年の年末に初めて訪れた宝塚大劇場周辺は、全体にビミョーな薄っぺらいメルヘンな古臭さを感じる雰囲気ながら、本当に古い建物なんてほとんど見かけなかったなあ。20年前に焦土状態になってすっかり建て替えた、それが全体に何となく古臭くなっている、そう言われたら納得の“薄さ”。

(当時も今も在団しているかたのインタビュー)客席には空席が目立ち、本番中に余震に見舞われ、足がすくんだが、公演後、避難所から来たファンの女性に「あんたらがきれいにして、公演に出てると元気が出るんよ」と励まされた。「来てくれた人のために精いっぱいやろう。演じることがかけがえのない幸せだと再認識できた」と語る。
【2014年1月17日 読売新聞】

本当はね、“震災の記憶”だけでいくと、わたし宝塚ってキライなんです。何であの節電の時期に、どの面を下げて通常通りの電飾キラキラな公演ができたのか。私たちは、すっかり真っ暗でごく普通のレストランまで軒並み営業時間を短縮していた、というかしなければいけないという空気に満ちていた、異様な雰囲気の夜の有楽町を逃げるように家路を急いでいたのに。信じられない、と思っていたし、宝塚好きになった今、そしてその時の演目が数日前の日記でもさんざん愛を叫んだ『ロミオとジュリエット』の再演だったと知っても、やっぱり信じられないし許せない。でもそれってきっと、“阪神”での成功体験ですよね。キラキラがみんなの元気につながるなんて甘いこと考えてたんでしょうね、劇場に入れる人数なんてたかだか2,000人かそこらなのに。神戸のひと達って甘いよね、それともそういう民族性なのかな。


ああ、ついでにヅカファン御用達ホテルと思われる阪急グループ経営・レム日比谷。地震当日、通りすがりにロビーにあった空いてるコンセントを携帯電話の充電に数十分だけ使わせてくれないかと念のため礼儀正しく聞いてみたら「申し訳ございません、お泊りのお客様以外のかたにはちょっと…」と撥ね付けてきたのも忘れない。その後もう1回行った帝国は使わせてくれたぞ。それこそかれこれ20年くらい前にさる事情で「宝塚にはこの先何があろうと入れこまない」と心に誓った私ですが、万一その誓いに背いて(いや、好きになってしまった時点で20年前の誓いにも、3年前の嫌悪感にも背いている気もしますが)ご贔屓なんか作っちゃってしかもその人が退団されるというその日にどうしても入り待ちしたい場合でも、レムにだけは泊まらないぞ。どうせ東京宝塚劇場の隣に泊まるなら、少々お金出してでもあの懐深かった帝国にするわよ、帝国に。

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