おとめ、開封 〜天海祐希の「男役仕事」に関して

≪「宝塚歌劇の男役」は、女子が外に内に持っている“理想の男性像”を体現した存在≫という基本理念をもう1度考えてみると、天海祐希宝塚歌劇団退団後の仕事の中で今まででもっとも「ヅカの男役」をあざとく引きずった役は、案外去年放送された管野美穂とのダブル主演ドラマ『結婚しない』なんじゃないだろうか、と思う。


なぜか母親につきあって観に行ってあげた2001年の映画『千年の恋 ひかる源氏物語』(上映年とタイトル忘れてたからwikipediaで調べた。このあたり、その時点ではまだ母があきらめずに“宝塚の男役のスバラしさ”を“布教”しようとしていたことを感じる)や『女信長』みたいな男装モノでもなく、オフ・ブロードウェイ崩れのミュージカル女優役として歌って踊る姿を披露した『カエルの王女さま』でもなく、あえて大手の花卉小売業勤務のガーデンデザイナー(しかし左遷されて店舗の店長に。このあたり、規模の大きさを感じる)、独身、カジュアルではあるけれど女性らしさもあるこぎれいな身なり、もちろんLの世界の住人でもなくて渋いけど悪そうな上司との不倫や優しいやもめの大学教授男性とのほのかなロマンスも設定されているあの役は、しかし管野美穂世代の私にとって恐ろしいほど“理想の男性像”だった。
左遷されたと言いつつも大手企業勤務ならではのそこそこに恵まれた年収、疲れないトーンのおしゃれで居心地のいい部屋、泥酔せずにやさしく励ましてくれる晩酌、仕事に遅刻しそうになったらバイクで会社まで送ってくれる、時にふと送られる花束。個人的にはバイクより四輪車のほうがよりいいなあと思いつつ、問題はそこではなくてあくまでも“そういうことをしてくれる”優しさなので枝葉末節は無視するとしよう。
そして実際、途中で、管野美穂がそこまで悪いところはなさそうな「海外駐在が決まったからいきなり結婚したくなった」婚活男性のプロポーズを、「決定打がない」と断るシーンが出てくる。実際に海外駐在の帯同家族をしていると、本当にその流れで婚活していた男性と結婚していきなり新婚生活を海外で送ってます…という30代の女の子を少なからず見かけるだけに、ここは本来「結婚する」一択なシーンだと思うのだけれど、管野美穂は「ときめかない、決定打がないから結婚しない」と判断し、その駐在員候補の婚活男性に伝える。そりゃそうだ、だってときめいている決定打だらけの人がすぐ身近にいるんだもの。いちおうドラマの本筋上、売れない画家の玉木宏が“ときめきの対象”にあたっているはずなのだけれど、彼はまあ、ハンサムでやさしく夢を追っているところが素敵だけれど経済力はない…という、表向きののボスキャラレベルに過ぎない。昔のドラクエ式にこっそりと姿をひそめているラスボスは、もっと具体的に結婚を考えた場合の“理想の男性像”を体現している、しかもすでに同居までしている天海祐希だ。女だけど。


ロミオでもレット・バトラーでもジョージ・クルーニーでも城田優でもないけれど、ある意味誰よりも“理想の男性”。『結婚しない』の春子さんは、きわめて暗喩的にあざとい「宝塚歌劇の男役」だったと思う。