おとめ、開封 〜実践編・後編〜

なんということだ、先生の息子さんの体調不良で今日のダンスはお休みだという連絡網が回ってきたではないか。一時帰国を前にやることだらけなのにサッパリやる気がしない中、そういえば宝塚歌劇という未知との遭遇を果たした顛末についてまだ未完だった。というわけで続きを簡単に書きます。


さて、宝塚観劇後、向かい側の日比谷シャンテにまっすぐ向かい、地下2Fの「チャヤマクロビ」で会社員時代に気分転換がてらここまで歩いてきては味わっていた(そういうことができたのが、都会にあり、かつ時間にルーズなあの会社の唯一絶対の良さだった)ソイラテを飲みつつ、「そういえば地下1Fのエスカレーター脇にあるあの異様なオーラを発するクドい店は宝塚のファンショップだったのか!!!そして日比谷シャンテは阪急東宝グループの経営でシャンテとはフランス語で“歌う”の意。そうか、そういうことか!」などと余韻に浸っていた私を、さらなる出来事が待ち構えていました。

シャンテを出たら、先程の宝塚のお客さん達がまだ大量にいるではないの。しかも、劇場内でも明らかに浮いていたインド人グループまで。

そしてさらに、シャンテの警備員のおじさんに声を掛けられる私。どうやら普段使いのコンデジを修理に出しているせいで持っていた一眼レフが目についたらしい。インド人を撮ろうとしていた私に、ニコニコと声をかけてきた。
「あなた、初めて来たの?」「ハイ」「もうすぐね、出てきますよー。ここにいれば、いい写真撮れます」…なんと、カメコに間違われている―!!! あまりにもフレンドリーで罪のないおじさんの様子に、思わず「いえ私はヅカファンでもカメラ小僧でもなくタダの通りすがりなんですが…」とも言い難く、5分ほど、先程見た雪組のトップスターさんの出待ちをインド人たちとともにすることになってしまった。何をやってるんだ自分。


そして出てきたスターさんは…可愛かったです。小柄だけど、そこがまた少年っぽさもあって。女の子っぽさもある顔なのにすっきり細面なところが、何というか、私が読んでた頃の「りぼん」の絵柄(具体的には吉住渉とか柊あおいとか水沢めぐみとか)の男の子みたいで。総合職女子ってけっこうそれ以上の身長あってクールな雰囲気の子も多かったんだけど、やっぱりキラキラ感や繊細な雰囲気が違ったな。なんていうかリアル少女漫画だった。写真も撮りました。肖像権云々で文句言われるといやなので、載せませんが。肌綺麗だったなー。


しかし驚いたのが、出待ちする宝塚ファンのお行儀のよさ。出てきたからと言って群がったりしないし、手や体にムリヤリ触ろうともしないし、ガードマンを振り切って「好きぃぃぃぃぃぃぃ!」とかって叫びながら駆け寄る気が狂った女もいない。むしろそもそもそのシャンテのおじさん以外に東京宝塚劇場として雇っているガードマンなんていなくて、親衛隊と思われる、お揃いのスカーフを巻いた人たちが、関係のない通行人や車もスムーズに通れるよう、通路を確保し交通整理的な役割もはたしている。ただし、最前列を陣取ってお手紙やサインを入れてもらうためのブロマイドを渡すのもそんなスカーフ組の人だけなので、ギブ&テイクはしっかりしているということなのだろう。


いやあ、すごい世界だ。宝塚音楽学校の軍隊のような厳しさを撮ったドキュメンタリーをTVで見たことがあるけれど、ファンだってたいがいだ。某音楽ユニットやらV系やらのライブやファンの子の世界に出入りしていたことがある自分としては、まったく信じられない。だって、あらゆる意味とあらゆる場面で「出し抜く」ことこそが不文律だったからなあ、あの頃のあの世界は。暗黙の紳士協定がキッチリと守られている(ように見える)宝塚ファン、恐るべし。それに、案外低コスト。同規模のホールライブでも確実に数十人レベルで投入される学生バイトとか、いらないわけだものね。


まあ女同士だから性的な欲望がからまないというのもあるのかもしれないけれど(でも今のご時世そうとも限らないと思うのだけど)、すごいな。でも、もし自分が年頃の娘を持つ母親だったら、そりゃヅカファンになってくれたほうが安心だなあ、「先輩ファンの言う事をちゃんと聞きなさいね」なんて言って…などと、都内の某お嬢様女子校の制服で出待ちをするお嬢さんを見ながら思ってしまった。ライブに狂ってしょっちゅう夜遅く帰っては金の無心をする私に「あんたも一回くらい宝塚も観に行けばいいのに…」と言い続けていた母、すみません。単なる好みの押しつけじゃなくてそういうのもあったのね。別にまあ私、高校中退もホテル突撃もチケット欲しさの水商売バイトもしなかったし、むしろ古参ファンのお姉さんの言う事をよく聞いては一緒に遊んでもらう、どちらかと言えばヅカファン的行動に終始していたけど。


それにしてもインド人。なんで来てたんだろう。あ、そうか。あのステージから溢れんばかりの役者たち全員による総踊りがマサラムービーの群舞っぽくて気に入っているのか。勝手に納得。