まぼろしの女子校ライフ

私ごときがこの言葉を使うのは身に余るし、NYとか香港とかロンドンとかタイとかいったいわゆる駐在地の花形として知られる都市の事情はまた違うのかもしれないけれど、少なくともこの南米某国における“日本人の、海外駐在員の妻”という限られたコミュニティはきわめて女子校的だと思うのだ。それも、「みんな可愛い」「可愛くなければ気が利いて男受けがよく、女子相手にも如才ない」「みんなカレシがいて当たり前」「意外に勉強もそこそこにできる」、いわゆる“モテる女子校”。女子校時代、氷室冴子などを読んで夢見ていた、華やかで楽しげな女子校ライフの図(そしてもちろん、現実に女子校に通って入る私は週末ごとに薄い本を買いに港湾地区に足を運ぶオタ女であり、後半は後半で鬱屈したバンギャル紛いであり、追試の常連だった)。実際、石を投げれば「もとJ●L国際線CA」に当たるし、「もと地方局女子アナ兼キー局のお天気お姉さん」もいるし、報道によれば今秋から「もとキー局女子アナ」もいらっしゃるという。ランク上がってるじゃないかー。ああもう、田舎の工場で作業着を着ていたオレなんてどうすればよいのやら。


そして当然、現地のかたと結婚してセレブ生活を送る「憧れの先輩」もいらっしゃる。気が強そうでチャキチャキで都心一等地のペントハウス住まいのブランド尽くしの80〜90年代に空想した“素敵な大人”を体現した華やかなお姉さまもいれば、若干郊外風な住宅地のプール付一戸建てに住むぼんやりしているようで見るところはしっかり見ている長身・ショートカットの“同性からラブレターが来る”系のお姉さまもいる。これもまた、楽しく華やかなお嬢様女子校的だと思う。

そして彼女たちを除き、「いつかは卒業していく」のもまた、女子校的だ。その先には現実がある。今はヒラヒラと遊びまわっているように見える私たちもまた、ある者は帯同者休職制度を使っていた会社に戻ってハードワークなOLに戻り、ある者はしがないハケンになり、ある者はレジ打ちパートになり、ある者は節約専業主婦になるのだ(駐在妻にありがちなサロネーゼ起業は、ろくな習い事のないこの国ではなかなか難しいと思う)。なにしろ所詮、右肩下がりの国のサラリーマンの妻にすぎないのだから。でも、その先の話は誰もしないし、あえて考えようとしない、甘いモラトリアム。


…まあ、だから気を遣う部分もあれこれあるわけです。それでも若干ウルフ方向で、王道・主流からは明らかに外れているのだけど、マニアックや鬱屈にまっすぐ行くのはちょっと憚られる。回りまわってオットの評価につながっても嫌だし、そもそも「あまりにも自分はアウトローではないか」と当時だって悩んでいたわけだし。


それでもまあ、結論としては楽しい。「こうありたかった!」と思っていた第2の人生が追体験できるんだもの、それって滅多にないよね。