ひりひりした記憶〜ちょっと前の芥川賞を読む

ちょっと遠出して、一日中かかってサインの登録、外国人登録。帰りのタクシーは思いっきり渋滞に巻き込まれて家に着いたのは19時過ぎ。


それにしても、朝7時台に家を出て夜の7時台に帰るなんて生活、ずいぶん久しぶりだ。そしてそうすると、大して歩いてもいなくてもキッチリ12時と19時にはお腹が空くんですね。会社員生活、今にして思えばやはり健康的だったかも。アシストしてくれた総務スタッフのお姉さん(実際に私より年上で、シングルマザー?)がちょっとだけ羨ましかった、心底オーエルが染みついている私。


待ち時間が随分長かったので、本を持って行ったのは正解だった。今日読んだのは、ずいぶん前にネットで買いだめして船便で送りつけていた芥川賞受賞作。実は、amazonでのレビューが面白い。

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

この本を読んで「こんな日記紛いなもの読んでも、面白いわけがない。」「稼いだお金を全部貯金できるなんて、なんて恵まれているのでしょう!」「こんな小学生低学年の作文が何故?選ぶ側の人間含めみんな精神的に劣化している証左を見た」「・20代後半結婚適齢期の女性・契約社員・人と馴染むのが得意ではない。 主人公ナガセと同じ境遇を持つ3つの条件に当てはまる人は「あーそれ、あるある」と相槌と打ちながら読めるのでは。上記以外の方にはお薦めしません。」と、とにかく★一つの酷評が連続している。タレント本でもなくてここまで酷評されてるケースって珍しいなあと思うんだけどね。何か皆、「会社員をしながら芥川賞を取った30才の女性」に特別なモノでも感じるんでしょうか。私は「30代・既婚女性・正社員経験のみ・一応フレンドリー」だけど、あまりに生々しくて、むしろ読んでて目まいがしましたけどね。


ちなみに私は、芥川賞受賞の表題作よりも「十二月の窓辺」という同時収録中編がものすごく気に入った。何と言うか、「やっぱいいよなー会社員って」と思っている最中に読んでしまっただけに、冷水を浴びせられたような。


1回目は寿退社、2回目は夫の海外赴任帯同、なんてまるっきり“女の花道(笑)”的な理由で円満退社した私だけど、いやいやどうして会社員時代は苦しかった。今の基準で言うモラハラに抵触したかどうかはわからないけれど、仕事ができないばかりに陰湿系からコトバの暴力系まで色々なご指導は頂いた。通過電車が来るチャイムを聴いて「ここで飛び込めば楽になるなあ」と思ったことだって、ロッカールームでひっそり泣いたことだって一度や二度じゃない。生理なんて結局会社員だった間中は2カ月に1回来てくれれば御の字だった(ちなみに今は、どれだけジェットラグに悩まされようとも35日ペースではちゃんと来ます)。「メンタルに認定してもらったら、『スイスで静養』で半年休んで『NYで高名なセラピーにかかる』で半年休んで…」という架空の欲望で乗り切ってしまえたのが、逆に私がメンタル認定されなかった理由かもしれない。まあ、よくぞ通算で二ケタ年数会社員というやつを続けたものだと思うというか、むしろ「十二月の窓辺」の主人公にしても、作者にしても、入社10カ月で退職できるなんて随分思い切りがいいなあとすら思ってしまう。とにかく這いつくばってでも正社員と言う肩書にしがみついてそのくせあっさり捨てた、それが今の私だ。いろいろ中途半端。いちばん中途半端なのはそれでよかったと思っていること。


帰任後にはまたオーエルになりたがるであろう私ですが、その時にはまた読み返そうと思います。少なくとも、何のモチベーションもない仕事に名前とか収入だけで飛びついてもいい事はないからね。ましてや、なんだかんだ守ってもらえる部分も多い新卒採用じゃないわけだし。