祈って、逃げる

「第5グループ、停電完了です。」…ニュースを見ていると、なんだか星新一か誰かのアナログなSFの世界に紛れ込んだ気分になる。もしくは、『リアル鬼ごっこ』や『となり町戦争』の新世代不条理ラノベ系。しかし、これは紛れもない現実なのだ。


今のところ私が住んでいる地域(結局第3グループだった)の計画停電は局地的に実施を免れている(たぶん国道沿い&高速の出口近くで、信号とか止まると危ないから?ラッキーなような申し訳ないような)らしいけれど、この数日、特にパン類を中心とした食糧の調達が難しくなっている。ただでさえ営業時間が短くなっているスーパーもデパートも、空っぽ。バナナだけ食べて出社してしばらくすると、部長から話があった。「12時半もしくは15時で退社、自宅勤務のこと。その前でも、どうしても会社でやらなければいけない仕事が終わり次第、帰っていい」


うーーーーーーーーーん、もっと混沌としていた数日前、連絡網で「這ってでも会社に来い」という強力なメッセージを発していたあの会社が、なぜ。しかもそういえば、特に私の部門など、同僚の半分以上が昨日から九州某県のサテライトコールセンターに長期出張してしまっている。っていうか取引先の電話もろくにつながらない。気持ち悪い。さっさと帰ることにした。


会社近くの郵便局でわずかばかりの寄付を振り込んで、人通りの少ない銀座の街を抜け、節電のため照明を極限まで落としてひっそりと営業を続ける店を横目にしながら駅へ急ぐ。有楽町駅前のマツキヨは人が押し寄せていて、どうやら手に手にマスクを購入しているようだ。どうせ帰るならいちばんきちんと帰れるルートで帰りたくて、東京駅に着くと、そこは、ちょっとした騒ぎだった。3連休…には少し早いし、春休みにもまだ早いはず。


「新幹線ご利用のかた、慌てないでください! 東海道新幹線は定刻通り運航しています。慌てないでください!」
詰めかけているのは普通のサラリーマン、ごく平凡な家族連れ、私と同世代かもっと若いくらいの乳飲み子連れのお母さん、ロングコートチワワ3匹を優雅にバスケットに入れた美しいママと娘、その他いろいろ。 


みんな、どこから来て、どこへ行くのだろう。そして、この街はどうなるのだろう。
どうか乗り切れますように、いや乗り切る。ただ逃げるのではなく。



どうでもいいけど、「慌てないでください」「落ち着いて行動してください」ってトラメガで叫ばれると、却って慌ててしまう私。なんとかならないものだろうか、私自身もそのアナウンスの仕方そのものも。