ノーミスとパーフェクトのあいだ〜女子フィギュアフリー・総括

まず最初に、4年前のトリノ以来続いているフィギュアスケートのトレンドをもう1回強く胸に焼き付けます。言葉はかつての浅田真央と今回のオリンピックでの浅田真央の表現を借ります。「まずノーミス、そしてパーフェクト」。これは、大前提です。一番重要なのは、大舞台でミスをしない強い精神力を持つこと。そして、ミスがあった人よりもミスがなかった人、そしてミスがなかった人よりもより完璧な人に、オリンピックの女神はキスをします。
この傾向はまずは女子(こちらは、実はずっとそう。むしろ、約20年前に女子にトリプルアクセル=「男子並みのスポーツ性」を持ち込んできた伊藤みどりが「異端児」という見方もできるくらい)、そして2年ほど前は男子にも飛び火しました。4回転ジャンプを飛んだジュベール(フランス人。今回のオリンピックにも出たけど絶不調で惨敗)に、3回転を飛んだジェフリー・バトル(カナダ人。今ではすっかり引退して何だか高額英会話学校の先生みたいになってしまった)が勝ったのです。ちなみにロシアのプルシェンコは、この頃はちょうど国内での政治活動やら何やらに熱心で、たまに海外のアイスショーで見られるその姿は目も当てられないくらいぶくぶく太っていました。

次に、「4年に1回」系世界競技大会で特に顕著になる「ホームアドバンテージ」をもう1回考えましょう。中でもオリンピックは、ナショナリズムが世界中で最も高揚する場のひとつといえます。どの都市も、死ぬ気で招致活動をした末に勝ち取った栄冠なのですから、その場所に特に縁の深い選手によりよい成績を取って欲しいと、誰だって思うはずです。


…以上の要件をまとめると、今回のオリンピック・フィギュアスケートの順位は、妥当です。妥当すぎるくらい妥当です。ちなみにカナダとアメリカはかなり自由に行き来できるので、「ホーム」性の高さは、カナダを10点満点、日本を3点とすればアメリカも9.2点くらいあげてもいいくらい「ホーム」。1〜3位の順位は実は年が変わる前から予想していた通りだったので、むしろムフフ、と言ってしまいそうなくらい。


ここで今回の安藤美姫の話。上記トレンドを気にするあまり、「守りに入りすぎて負けた」のが今回フリーでの彼女でしょう。例え「パーフェクト」だったとしても、目立った技の一つもなければ、それはタダの「ノーミス」にしかなりません。むしろ粗さがしをされる可能性もある(そもそもミキティには「体が硬い」という決定的弱点があるし)。それよりはもう一つのお膳立て、「ホームアドバンテージ」を背負って、「ものすごく決定的なミスはない」人たちに軍配は上がります。彼女自身は、キム・ヨナ的「王道アジアンビューティ」とは違った、独特なオーラとキラキラ感とセクシーさがある素敵な、替えのきかないスケーターではあると思うし、「クレオパトラ」はエキシビションみたいに面白いプログラムだし、エグい衣装も良かったけど、それは今回とは別の話。


次に、今これを書いている時点では今日の演技を見ていないんだけど鈴木明子の話。ジョージ・チャキリス(彼女がフリーで使っている往年の名作映画で、主役以上にカッコよかったアメリカの俳優。親日家らしい)から応援の言葉入りのファンレターをもらったんだそうです。パーソナルベストを出したんだそうです。8位入賞でその頑張りを大きく報道してもらえる競技であったとすれば、ようやくわざわざ摂食障害の過去を振り返らなくてもよくなる、いい話です。彼女の「ウエスト・サイド物語」は、本当に見る者を惹き付ける、勢いのある楽しいプログラムだから、ノーカットで見るのが楽しみです。


今日も同じ先輩と同じパブに行きました。私の強い想いが通じたのか、「これは稼ぎ時だ!」とマネージャーが判断したのか、キッチン担当が大画面で皆と興奮を味わいたくて時間外出勤したのか、今日は軽食がありました。会社を出たときからの戻るときまでの先輩との会話はエレベーターの中での「審査員に韓国人とカナダ人はいるのに日本人は入っていないって言うけど、それって、当日決まるものなの?」という先輩の問いで始まって、「真央ちゃんよりプルシェンコが怒っちゃうね、これは」と店を出たときの先輩のコメントで終わりました。



なんだか、すごく寂しい。