アウトサイダー・インサイダー

愛知の自動車工場を辞めて早5ヶ月。すっかりアウトサイダーになったかと思いきや夫が未だに業界人なのであんまりな事を言ったらインサイダーになるのかしら、と思いつつ、ここ数日の、あの愛知の自動車メーカーをめぐるメディア報道を見ていてあれやこれや言いたくはなります。いわゆる評論家や論者の言うことに対して「それって全然的はずれ!!!」と笑ってしまったりね。というわけで、今の率直な感想をいくつか。



A.去年日本でいちばん売れたハイブリッド車のブレーキ問題。ユーザーからの報告数が少ない割に大きく扱いすぎじゃない? … 実はあのメーカーってリコール台数はもともとすごく多かったりするんですよね。売り上げていた母数も多いし、これはメディアが言ってる通りだけど全然違う車種でも同じ部品を使ってることなんてザラだから、100万台クラスのリコール、なんて例は実はすごくショッキングなネタではない(HPで過去のプレスリリースを見ると散見されます)。ましてやプリウスの場合はメーカーに上がっている例が3桁に乗っていないわけだから(うち国交省まで行ってるのは10数件)、クレームを受けて調査中、および暫定の対策は済と言うのが実際のところだと思う(推測)。そこでNHKの21時のニュースでトップ扱いになるのは時期尚早なのでは? というのが正直な感想だったりします。もっとも、バカ売れする事が予想される=想定しなかった使われ方をされる恐れが上がる車種で問題点を出し切れていなかった、というのは誉められたものではないわけだけど。でも実際に使われ始めないと立証できない事ってそれなりにあることはあるんだよなあ…。新薬実験のバイトとかとは違って、「業界人じゃない人、クルマに詳しくない人300人に1年生活の足として乗ってもらう」なんてテストをしたら、それはもう、新車ではなくてタダの限定仕様車だと思うし、それでも例えば今回みたいなトラブルが出ない可能性もあるわけだし。


B.生産工場やサプライヤーにばかり話題が行っているのは何で?…クルマはいくつもの部品が工場で組みつけられてできている、というのは間違いない事実だけど、「非正規雇用者が増えたから精度が落ちた」「サプライヤーを買い叩きすぎで部品の精度が落ちた」と決め付けるのはどうなのかな? という話。工場のラインそのものは、基本的にはものすごく教育が行き届いていて、いわゆる期間従業員の方たちの作業精度が上がってからじゃなきゃ独り立ちはさせないシステムになっています。個人的には、問題はむしろ、正社員にあるんじゃないかなあという気がする。私自身も片棒を担いでいたけれど、私があの業界にいた時期と言うのはとにかく「グローバル化」の一途で、ありとあらゆる部署に「グローバル」という名前をつけられていた時代でした(まあ、今住んでいるところの近くに本社を移したほかの自動車メーカーも、本社の建物の名前は「グローバル本社」らしいけど…)。それで何が起きたかというと、「とにかく若手の正社員を早いうちから海外トレーニーに出す」という現象。私たちの世代ももっと若手も、入社4〜7年目で北米・南米・欧州・アフリカ・中国…と世界中に飛んだものです。でも、それって、実はいちばんシゴトがわかってくる時期なんだよなあ。先輩はまだ役職者になっていないし、後輩の面倒も見るようになるし、後輩の素朴な疑問によって気づくことは多かった…と日本にずっといた私は思うし。帰ってくる頃にはみんな、残念ながら大学を卒業したばかりの若者にはオヤジになっていていかんせん軽い疑問を口にしづらい風貌になっているからなあ、やりづらいよなあ(彼らの多くは「海外赴任」にビビって手近なギャルと結婚してしまった結果妙に所帯じみてしまい、必要以上にオヤジ化が進行している)。しかも海外組、現地で「お客様」扱いされてて大して実務能力を身に着けてなかったってケースもあったし。ちなみに今のは事務方に多いケースだけど、技術部門は技術部門で組織が巨大化しすぎたせいか、サプライヤーからの出向者よりむしろ正社員にイマイチ頼りになる設計さんがいなかった、っていう印象があったのも事実です。少なくとも、サプライヤーはあくまでもメーカー本体の設計者が最終的に承認のサインをした図面にのっとって部品を生産しているだけなわけだし(サプライヤー側が見つけた不具合をメーカー本体に無断で修正する…なんてことが起きると、逆に大問題になります)。仕事を離れればよきパパよき夫ってタイプも多いんだけどねぇ…。


こんなものかなあ。こうして書いてみると大してヤバい話してないなー。まあ、巨大化しすぎた組織は組織で問題だよなぁ…と社員数100人弱の中小企業で実体があるようでないモノを扱っている今の私はぼんやり考えています。でも、「モノづくり」ってやっぱりすごく尊いものだな、と思うのも事実。ぜひ、あの某自動車メーカーには今こそ頑張って欲しいと思います。だって、ずいぶん色んなことをあの企業集団から私は学んだと思ってるから。