喪失と再生

moeringal2008-05-30

1年少々前に買った携帯がちょっとずつおかしくなったのはGW、フランスだった。いきなり電源が切れて、もう一回再起動を試みてもウンともスンとも言わなくなってしまった。その後は電池パックを入れ替えたりしながらだましだまし使っていたんだけど、ある日突然、メールのメモリーがぶっ壊れて、1000件保存できるうち800件くらい入っていたメールが80件分しか見られなくなっている上、新しいメールが一切受信できなくなってしまった。
私の扱いが悪いのが一番いけないんだけど、でもちょくちょく床に落とす程度でこんな簡単に壊れるとは思っても見なかったのでちょっとびっくりした。とは言えメールが見られないのはあまりにもまずいので、とりあえず修理に出してみる事にする。 
同型とは言えやたら派手なオレンジの代替機に、サービス精神の欠落した若い男の店員から連絡が入ったのはその3日後だった。何の感情もない、これならETCゲートの音声の方がマシなくらい無機質な声で男は言った。
「なお、メモリ等の設定は全て初期化しておりますので」
消えるなら消えてしまっても構わないと思っていた。でも、いざそうなってみたら、思った以上にショックを受けている自分に気付いた。
友達が彼にプロポーズされたという一報も、濃い人生相談メールも、落ち込む自分を励ましてくれたメールも消えてしまった。そう、もう修復できないほどすれ違ってしまった、でもある時期は確かに誰よりも精神的に近い場所にいたあの人からのメールも、もう見れない。…どうしようもなく淋しい。でも、反面、どこかスッキリしたような気もする。

そう言えば最近、似たような感情を味わったばかりだったのを思い出す。スリに遭った財布は、ものすごく好きだったのに何か色々な要因で上手く行かなかった昔の彼に貰ったものだった。あの時の私も、淋しくて淋しくて死にそうだったのに、どこかせいせいしたような気がしていた。財布そのものは私自身がもともと欲しくて、だから別れたから云々というわけでもなく、ごくごくニュートラルな気持ちで持ち歩いていたものだったはずなのに。

当たり前のようにそこにあったものが、ある日突然消えてなくなる。ぽっかり穴が開く喪失感に耐えられるのか、最初は不安で仕方ない。でも、きっと恐らく、自分で最初思った以上にあっさりと、むしろ知らないうちに立ち直っていくであろうことも、私はもうわかっている。大丈夫、きっとすぐに忘れてしまうさ。