開き直ってやる

プロジェクトのMLやら部品会社からのメールやらに紛れてよくわかんないアドレスからメールがあった。つうか夕日新聞(仮)のドメインってどんなスパムかインサイダー疑惑だよー。なのに会社のシステム部門が分厚く敷いたスパムブロッカーを軽く潜り抜けてるとは、恐るべし。
開いてみたら大学時代のゼミ長Iくんからのメールだった。担当教授(既に定年で退官)の古稀を祝って集まりましょう、との事。そりゃあ厳しいチェックもかいぐぐったわけだ、とどのつまりが同窓会のお誘いだ。珍しい。長年の不義理と距離が祟ってもはや忘れられてるとばかり思っていた。
担当教授はいい人だった。必要最低限しか教授室に寄りつかない私がさる事情でいきなり奨学金を申請した時、あっさりサインをくれたりもした。バイトばかりしていて途中経過を一度も報告しないまま、散々なクオリティで提出した卒論も通してくれた。「mさんは一番伝統ある堅い感じの企業だけど、頑張って。仕事し過ぎないように、思いつめないように」とすら言ってくれた。
お元気なんだろうか、と思った事はもちろんある。彼の退官前、大学と同じ沿線上にある水道橋へ出張に行くついでに教授室を訪れようかと思った事もないわけではない。真面目で熱心な同級生から「元気?」という葉書をもらった事もある。にもかかわらず不義理を通していたのは、他でもない私のせいだ。理由は仕事が忙しかっただけじゃない。
私は自分に自信がなかった。いや、今でもない。そもそも何やら薄汚いブルゾンを羽織って田舎の工場の中をウロウロしている今の仕事は、知らない人が見たらいかにもビジュアル的にカッコ悪いに違いない。仕事内容だって『ジェネラリスト』とでも啖呵を切れば聞こえはいいけど、広報・宣伝も工場内新車立上げも海外工場プロジェクトも極める事無く、中途半端極まりないのが実情。莫大な資本を必要とする製造業なだけに、年収も決してよくないし。夕日新聞、大阪夕日放送、書売新聞、K談社、シルバーレディ証券(以上全てバレバレだけど仮名)、皆様の受信料で成り立ってる団体…同級生達の就職先に高給で有名な企業がズラリと並ぶのもプレッシャーだ。皆、年相応の身なりと貫禄を身につけているに違いない。少なくとも、いくら処世術にしろ現場のおっちゃんにヘラヘラと歳を省みず『若い女のコ』然とした愛想笑いをする自分よりは。
でも今回は、何となく行こうかという気になった。だから気が変わらないうちに返事を出した。昔のクラスメートは、すぐに返事をくれた。相変わらず、マメで真面目な人達だ。
正直言えば、今でも怖い。でも、楽しみなのだ。そしてそれ以上に、何となく私は開き直れたのかもしれない。
田舎で専攻科目とは程遠い仕事をしていたって(しかし意外にも私は、●年の社歴の中で今一番仕事が楽しかったりする)、薄給だって、その仕事すらできてなくたって、にもかかわらず結婚も出産も未経験だって、いいじゃないか。だってそれが私だ。…えーい、開き直ってやる。