恋人のいない右側

名古屋パルコ7Fタワーレコードは、何度訪れても胸が痛くなる場所だ。恐らく今までの人生で一番好きになった人と別れて以来そうなってしまった。
そこは、彼がこよなく愛し、そして会うたびに一緒に立ち寄っていた場所だったから。
とは言えそこは私自身にとっても中学時代以来のホームグラウンドなので、おいそれと捨てるわけには行かない。ポイントカードも貯めてるし(笑)…というわけで今日も私は矢場町付近にある美容院の帰りにタワレコに立ち寄った。時間帯は夜19:45頃。そしてそこで私はとんでもないものを見る事になる。
「…モロホシだ…」 そう、そこでマネージャーやタワレコ店員数名に囲まれていた、ともすれば只のヤンキーかホストに見えるアディダスのロングコートをぞんざいに羽織った茶髪の男は元光GENJIの『かあくん』こと諸星和己だった。恥を承知で言います、小学校3年生の時、私にとってのスーパーアイドルスターは間違いなく光GENJIでした。ない運動神経でローラースケートも乗ったし今でも「パラダイス銀河」の一番はそらで歌える(多分)。そして何を隠そう私のライブ・コンサート初体験は、マッチの元追っかけの従姉のコネを駆使して愛知県体育館のロイヤルボックスで観た光GENJI。そのフロントマンが、きわめて安っぽく身近にそこにいたのだ。
その前にストアイベントの一つでも開いたのかどうか。周囲にファンの一人もいない中、ヒップホップ小僧には「ま、これも縁だからねー」と言い、明らかにセンター試験帰りの制服の女子高生には「お母さんによろしく」と笑いながら、周囲に集まってきた客全員に、手持ちの安っぽいビラにサインを書いて渡す諸星。その演歌歌手も真っ青の営業ぶりは、イタいとか哀れとかそういう領域を超えていた。愕然とした。そして一番すごかったのは、にもかかわらず、肌はキレイじゃないし頬もこけているけど、その瞳だけはかつて憧れていた『光GENJIのかあくん』そのままに圧倒的にきらきらしている彼を見ていて、ものすごく嬉しくてドキドキしてしまったことだ、まるで10才のこどもみたいに。
そして私は、今日隣に、ミーハーなアイドルや低俗なもの、泥臭いものを徹底して忌避していた元彼が横にいない事に心から感謝しつつ、ラスタカラーの帽子を被ったガキに混じってサインをもらってしまったのである。いいじゃん別に20年前の夢達成なんだからさー、えへ。