人生ぐるぐる

既に第2のホーム化している某工場でプロジェクト関係者全体向けの大きめ説明会を開いて、直帰。そのまま栄の料理教室へ。…と、これだけだとあまりにも味気ないので、最近、『縁』というものについて考えた話をふたつ。


A. それは台北・中正記念堂。私とE子はある日本人紳士にナンパされた。リタイア後は、某電機メーカーの駐在員として数年を過ごしたこの台湾で格安のマンションを借り、ビザかパーミットぎりぎりまで滞在しては時々川崎の自宅に戻る…という生活をしているのだという。柔和でかわいらしい面立ちや声と白内障のせいでぼんやりと濁った眼、「こうしないと信用してくれないでしょう?」といって見せてくれた台湾の出入国スタンプとビザで埋め尽くされた日本人パスポートは警戒すべきものでもなかったけど、彼が案内してくれようとした林森北路というエリアは私たちが泊まっているホテルのある中山北路に程近かったので、申しわけないなーと思いながらお断りした。
別れ際に教えてもらった他の場所への道で、私とE子は何となく重苦しい空気に包まれていた。何となく、彼がひどく孤独で淋しそうに見えたからだ。奥さんは死んでしまったのだろうか、ともだちはいるのだろうか。悪い人ではなさそうだったからついていってあげてもよかったのでは、というE子に、私は「これ以上一緒にいたらもっと悲しくなるかもしれないじゃない。縁があれば、また会えるよ」と言った。何だか、これ以上長く一緒にいたらいけない気がしていたのである。
そしてその数時間後。占い横丁やらナイトマーケットやらをほっつき歩いて、ミニ麺の美味しい店で軽く腹ごしらえをしてホテル付近の小龍包が美味しいという店に向かう途中、「そう言えばお茶のお土産まだ買ってなかったよね〜」と言いながら何気なく入ったお茶専門店のカウンターに、彼はいた。「おおお!!!」と驚く私たちと再会を喜び合いつつ、「あのねー、昼に中正記念堂でこの子達にフラれたの」とお店のおばさんに世間話をするおじさん(おじいちゃん)。店の奥には一応彼とも顔馴染と思われる駐在員らしき日本人中年男性グループ。「ああ、あそこのお店は向い側で、美味しいよ。少し食べてきているなら、小龍包と炒飯を食べてらっしゃい」と言われるがままに入った店で小龍包をもりもり食べながら、「ああ、気分が軽い」「よかったねえ。仲間がいて」「単なる明るいナンパおじさんだったね」「息子の嫁と上手く行ってないとかなのかな」「まさかあのおばちゃんが現地妻か?」などと言いあいながら、「あー、会えてよかったぁ」と、わけのわからない安堵感に包まれる私たちであった。


B. そして昨日。以前この日記で『人間交差点』と名づけた本社のエレベーターホールに、何やら見たことのある顔がいた。彼の名はK沢君。この会社の人だからいるのは別に不自然でも何でもないんだけど、彼とはなぜだか、なくてもいい不思議な縁があるのだ。彼との初対面は●年前と意外に古く、当時付き合っていたMの友達だったのがそもそものきっかけ。今はもうないM行きつけの覚王山のバーでバッタリ会ったのね。K沢君も彼女付で、まだ22才にして既に婚約しているという話に私はビックリしたものである。
その後、「奥さんの尻に敷かれまくり、タバコも満足に買えない超低額の小遣いで生活しており、休憩時間に同僚にタバコを恵んでもらっている」という情報が他の知人からどこからともなく入る中、遭遇第2弾は2005年・トルコ。8月7日出発11日間16万9000円!!! という激安ツアーに参加したら、このK沢君ご夫妻がいたのだ。しかし私はMと別れて既に○年、そもそも○年前の薄暗いバーで会ったきりだからイマイチ確信が持てない。持ったところで何を話せっつーんだ…と思って静観していたんだけど、結局追加料金で泊まれる洞窟ホテルが一緒だったり、そもそもK沢君とうちの母がスモーカーなせいで食事のテーブルまで大抵一緒になる羽目に。というわけで、結構色々話す事になった。お互い知ってか知らずか『Mと付き合っていたことがある』という経緯にはあえて触れず、「大学の友達がそっちの●●部で…」「えーそうなんだぁ」みたいな会話をしつつ、意外にも結婚はその前年と、婚約から何年も経ってからだったことが判明したりした。ちなみに悪妻と名高いK沢嫁はいかにも可愛い苦労知らずのギャル上がり勝ち犬お嬢さんって感じで、別にそんな悪くもなさげだったぞ。K沢君ご夫妻自体も何気にラブラブだったし。(後で元彼・Mと飲んだ時その話になったら「なんだよあいつ、離婚するとか何とか言ってるくせに」と言ってた。ま、そんなものでしょ夫婦なんて) …そして昨日遭遇第3弾、またしても1年半ぶりの再会である。お互い顔見た瞬間気付いてビックリして、挨拶もそこそこにすぐエレベーターが着いちゃったんだけど。しかしK沢君のスーツ姿は何気に初めて見たなぁ。


…いかがでしょうか。結婚とか出会いとかそういうレンアイ絡みじゃなくて、こういうのって単純にすごいと思うのね。Aのおじさんとの再会にはああ縁って、それから街ってこんなもんだよねと思ったし、BのK沢君とはなぜだか思わぬところでバッタリ出くわし続ける。人生に何の足しにもならないように思えるのに、なぜだかグルグル色んなところで出会い続ける人たちとは、きっとこれからも何回も、永遠に出会い続けるんだろうなあ。