祈り

知らない間に「何となく最近疎遠になっていたけど、ある一時期すごく密接で、だから今でも何となく心の中でファミリアだった」人が死んでしまうなあ、と思う。しかも癌とかで、しかも40才以下とかで。

ZARD坂井泉水慶應病院の階段から落ちて脳挫傷で死亡、という記事を見て、ものすごくビックリした。「こざっぱりと優しそうでキレイ、ジーンズ姿がさわやかに似合うナイスバで声もさわやか」と思われるルックスを持ちながら全盛期に一切TVやライブに出なかったせいで、覆面歌手説も絶えなかった彼女だけど、知らない間にそんな大変な事になっていたとは。事故死か自殺かが今日現在の報道の焦点になってるけど、『階段から落ちた』ことよりも何よりも『昨年子宮顎癌で入院。子宮摘出後、癌が肺に転移している事が発覚し、抗がん剤治療のため入退院を繰り返していた』というところが驚きだし、重要だと思うし、悲しい。ああ、これがいわゆる美人薄命って事なのね…。
それにしても、ZARDというのは徐々に売れなくなっていても寡作になっていても「何となくファミリアな」、稀有なアーティストだったんじゃないだろうか。それはかの大ヒット曲『負けないで』が今もなお様々なシーン(高校野球とか24時間テレビ、ほか定番のお涙頂戴もの)で流れまくっているのと、あとZARDの曲風が最初から今まで殆ど印象が変わらないのが逆に功を奏してると思うけど、それにしてもZARDってのは、曲の好き嫌いはともかく意外に存在感が消えなかった。っていうか正直、今後何気なく「坂井泉水っぽい声のボーカルによる、'90年代ビーイングっぽい曲」が出たら、「なんだまだ生きてるんじゃん」と思ってしまいそうで怖い。それくらい現実感がない。

話変わって今朝。会社へ来たら弔事連絡がメールで回覧されてきて、それ自体はそんなに珍しい事じゃないんだけど(社員の家族や定年後OBの情報も回ってくるから)、今日は見た事がある名前の本人死亡連絡があって驚いた。ちょうど脂の乗ってる世代の設計さんで、1年半ほど前のある時期まで、毎日のようにやりとりしていた人だった。設計の知識も何もなくて今にして思うと「無知」と「天然ボケ」の狭間をさ迷う発言ばかりしていた私に対して、テンパってる中、よくあれだけ丁寧に明るく相手をしてくれたと思う。常駐場所が本社の設計部門だったから日常的に見かけることこそ少なかったけど、あれ? わりと最近うちの工場でも見たことがあるような気もしてたしお互い軽く会釈っぽい挨拶なんかしてたのに…
「自殺じゃないんだな?」「大腸癌だそうですよ」「38だろう、随分若いな」 上司達のやり取りは嫌になるくらい冷静だ。去年まで設計にいた先輩に聞くと、去年の年末頃、ポリープが悪性化しているのが発覚したとの事。とは言え先週の水曜日、自分が担当していた車両ができあがったのを見に会社にやって来たんだそうだ。余命宣告を受けたから、最後に手がけたクルマを一度見に来たかったという事だけど…うええ、でも、まだほんの一週間前は、車椅子でも何でも会社まで来れたんでしょ?皆と喋ってたんでしょ?
「信じられないですね」「私もまだ信じられないよ。すごい元気な人だったのに」とりあえず今日はお通夜のお手伝いに行くのだと言う先輩の目は赤かった。あの人は本当に死んでしまったんだろうか? もしかしたら本当は相変わらず本社に常駐していて、たまにフッとうちの製造現場を見に来るんじゃないだろうか? 私はまだそう思ってしまう。

若すぎる死に対して、ご冥福をお祈りします、と、形通りの言葉を心から思う。そして、願わざるを得ない。明日の私もどうなるかちっともわからないけれど、とりあえず毎日を大切に、後悔しない人生を送る事ができますように。